灼熱街道

エジプトに行ってきた。
エジプトったらピラミッドではあるが、オレの目的は別の場所*1、アブ・シンベル神殿である。

ご存知ですか? アブ・シンベル神殿。アスワン・ハイ・ダムの建設で湖底に沈んでしまうところを、ユネスコによって移築保存された貴重な遺跡である。この移築工事をきっかけにして、ユネスコによる『世界遺産』が創設されたのだな。しかしアブ・シンベル神殿は、世界遺産登録第一号ではない*2。なんか矛盾してないか? ユネスコさんよ?


それはともかく。
アブ・シンベル神殿までの道のりは、カイロ〜アブ・シンベルのフライトにてアブ・シンベル市一泊、翌早朝からの神殿ツアーが一般的である。しかしオレが予約をした時点でアブ・シンベルルートは満席、このためカイロ〜アスワン間の航空券しか取れなかったのである*3
飛行機大好きのオレにとっては、かなりの痛手、そして旅程からしても痛手。でも無いものは止むを得ない、オレはアスワン〜アブ・シンベル往復の日帰りツアーを利用することにした。

かくして不満の残る600km弱の砂漠往復ツアーとなったのだが、後になってみればこれは大正解。非常に楽しい時間を過ごすことができたのだ*4。今回はその顛末を書くことにする。


さてツアー当日、10時きっかりにガイドのモハメド君が、オレをホテルに迎えに来た。会うなり言うには、「本当はもう少し遅くてもよかったけど、このホテルはちょっと大変なところにあるから」と。
そう、オレが泊まっていたホテルはナイル川の中州にあって、いちいちボートで渡河しないと街に出られないシステムだった。ちなみに本来のツアー開始時刻は10:30である。
そんなんでモハメド君とナイル渡河、ボートの中で彼はiphoneを取り出してオレを撮影、すかさず自分のフェイスブックに写真をアップして「これであなたもエジプトの有名人だ」だと。モハメド君、日本語がうまい上にジョークセンスもナイス、気に入ったゼ!

で、渡河後は車に乗り込み、集合場所へ行くと言う。『集合』と言うのがイマイチわからなかったが、着いたのはココ。

切りかけのオベリスクがある広場である。ここでツアーの全体がそろうのを待つそうだ。ちなみにオベリスクは見ていない、ちっと残念。


さて今回のツアー、計7台のワゴン車にて7組の観光客がアブ・シンベルまで移動するそうで、つまり各車は貸し切り状態となる。で、先頭から1号車・・・となって、奇数号車にはライフル携帯の警官が同乗するとのこと、すげぇ物々しいな^^; これがつまり『集合』ってことね。
オレは4号車に割り当てられたので、ポリスなし。モハメド君とドライバーのアリさんのみ、ワゴンの後部座席はオレの独占であった。


かくてツアー開始、砂漠の中をひたすら走るのだ!

どこまで行っても砂漠、山なんぞほぼなしで、オレは初めて360度の地平線を見たよ。完全なる地平線、日本では絶対に見ることができない光景は、かなり感動ものだった。
道々モハメド君が言うのは、「観光客を分散させるのはテロ対策ね。ポリスもそれで乗っている」だって。つまり襲撃された場合でも、少なくとも数台は逃げ出せるようにして、被害者を減らすのが目的と言うこと。
エジプト、やはり物騒である。


物騒ではあるが、そこはやはりエジプト人。1・2・・・7号車の隊列も途中から乱れだして、って各車追い越したり越されたりのカーチェイスが始まった。しかも150〜60km/hの速度で! すっげ〜楽しい〜♪*5
アリさんもかなりのスピード好きと見えて、いつしかオレの車は先頭を突っ走っていたのだな。砂漠の真ん中カーチェイス、ポリス乗っけてカーチェイス、これほど楽しい余興があるだろうか。しかしここでテロに襲われたら、オレは間違いなく死ぬだろう^^; 後続車は遙か後ろ、その上武器もなしだし^^;;


と、そんなんするうちに、車窓の景色に変化が現れた。

ん? 何アレ?
遠くの端っこが盛り上がっているような?


・・・蜃気楼じゃ〜ん!
初めて見たよ、蜃気楼! これぞ噂の砂漠の幻、灼熱の中でしか見ることができないというアレ。やぁ〜まさか、こんなオマケまで付いてくるとは!!
不満どころか感動の嵐、砂漠縦断の日帰りツアー最高である。飛行機からじゃ絶対に見ることのできない風景だ。

蜃気楼は窓外に延々と続いていた。うわっ、あんなに宙に浮いてるよ? すごくね?
しかも蜃気楼の上に蜃気楼、二重構造だぜ?
そう、本当に延々と。行けども行けども蜃気楼、右も左も蜃気楼、言ってみれば『蜃気楼の嵐』、マジすげぇ! オレ、絶賛興奮中!!



・・・ところで、人間は同じ状況が継続すると飽きる、という性質を根本に持つ。かくて30分後にはオレも飽き飽きしていた、さっきまであんなに感動していたのに。
「あ〜蜃気楼ね、浮かんでるね〜向こうの方が、あはは」ってなモンであった。しまいには「もう蜃気楼はいいから、早く到着しろよっ」などと中っ腹になる始末、これが現実なのである。


そんなこんなで約3時間、アブ・シンベル神殿に無事到着。
7台いた車のうち、5台は市内へ入っていった。モハメド君曰く「彼らは今日は移動だけ、明日の朝に神殿を見に行くんだね〜」とのこと、金も日程も余裕あるんだ、いいなぁ・・・。
でもモハメド君は、「彼らはヨーロッパ人だから。ヨーロッパとエジプトは近い、だから余裕のツアーができる。でも日本は遠いね、無理してでも見に来ないと」とオレに優しい見解を示す。モハメド君、ホントにいい人じゃ〜ん。ちなみに残った2台は、どちらも日本人だった。


このような次第で、午後のしばらくをアブ・シンベル神殿独占状態で満喫し、非常に満足したのではあるが、それはまた別の話*6

死ぬような暑さの中、遺跡をあっちだこっちだと見て回り、その後また砂漠の中をひた走り、アスワンに戻ったのであるが、往路と遺跡で本日分のアドレナリンをすべて使い尽くしたオレは、復路ではかなりおとなしくなっていた。
とは言え、決して寝ることなく、砂漠の風景をずーっと見つめ続けていた。こんな景色、二度と見ることができないかも知れない、寝ちゃうなんてもったいない。


そしてもうすぐアスワンという地点で、ぼちぼち日も暮れ始めてきた。

砂漠に沈む夕日、これまたステキなオマケであった。

(2016/05/01撮影)

*1:こんなことを言いながら、もちろんピラミッドもスフィンクスも、さらにはツタンカーメンの墓も見に行ったけど。

*2:登録第一号はガラパゴス諸島などの12件、エジプト関連は一件も登録されていないのだ。

*3:おとなしくパッケージツアーを使えば、多分座席は確保できたと思う。だがしかし、オレの旅行は自分で航空プランを立てることに喜びを見いだす方式なので、このような残念がたまに発生する。

*4:時間と体力が許すのであれば、オレは絶対に日帰りツアーをおすすめする。

*5:そう、オレはスピード大好きである。

*6:これまた微妙な体験をしたのである。そしてモハメド君、大活躍だったのだ。