カトリック江上天主堂(重要文化財)

鉄川與助氏(故人)、という方をご存じだろうか。
『教会建築のパイオニア』と呼ばれている、長崎出身の建築家である。
江上天主堂は鉄川氏の設計・施工によるもので、長崎県五島列島奈留島にある。


生涯に手がけた教会堂は50近くと言われているが、その内の24聖堂が現存しており、5聖堂が国指定重要文化財、3聖堂は長崎県文化財指定を受けている。
さらに24聖堂の内の4聖堂は、世界文化遺産候補ともなっている*1。こんなスゴイ日本人、他にいないでしょ?*2
しかもこれらの建築は、基本的に独学で覚えたもの。基礎は宣教師であるカトリック司祭*3から学んだそうだ。


・・・ここまでの話は、偉業ではあるがあくまで結果の話。オレが鉄川建築に惚れ込んでいるのは、こうした後付けの部分ではない。
この方の造った聖堂は、重厚だったり優美だったり、あるいは簡素だったりと様々だが、どれも共通しているのは、細部が丁寧であること。目立つ部分だけではなく、気付かないようなところにも思わぬ意匠が施されている。
長崎方面にこうした古い教会が多いことに気付き、誰が造ったのか確認するとアレも鉄川建築、コレも鉄川建築、さらに調べて偉業の話を知ったという次第。


さて江上天主堂、ここに行くはフェリーしかアクセス手段がない。しかも直行便がないため長崎〜福江(乗換)〜奈留ルートになり、かなり不便な場所である*4

ちにみに本題とは外れるが、この島にある県立奈留高校は、ユーミンの『瞳を閉じて』を愛唱歌*5としている。この話でどの島か、気がつく人もいるかと思う。


ともかく、はるばる海を渡り、江上天主堂に行ってきた。

外見は簡素な木造の聖堂、しかし堂内は全く違う空間となる*6


リブ・ヴォールト天井*7、三廊式*8の完璧なゴシック様式となっている。見事。


玄関の上部はアーチ状にくり抜かれ、そこに半円形の桜の花をあしらっている。


屋根を支える化粧垂木は雲形にしつらえ、それぞれの間に四つ葉、つまり十字架の形があしらわれている。
こうした隠れた意匠があちこちにあり、それを見つけ出すだけではなく、その意味を考えてるのもとても楽しい。これぞ鉄川建築の醍醐味である。


鉄川氏は仏教徒であり、司祭からどれだけ誘われても改宗をしなかったと聞く。しかしキリスト教への理解は、非常に深かった方だと思う。

(2008/03/01撮影)

*1:長崎の教会群とキリスト教関連遺産』にて、教会を含む集落が重要文化的景観とされている。

*2:辰野金吾氏の作品が8件の重要文化財指定を受けているが、内4件は共同設計である。また世界遺産については、指定・候補ともにない。

*3:神父さんのこと。

*4:2018年現在の話。オレが奈留島に行った頃は、長崎からの直行があったのに。

*5:校歌は既に存在していたので、愛唱歌である。一部では『校歌』としている情報もあるが、それは正確ではない。ただし実質的な扱いは、『校歌』とのこと(島の訪問時に在校生から教えて貰った)。

*6:内部は基本的に信徒以外は立ち入り不可、普段は施錠されている。オレはきちんと許可を取って、堂内の撮影をさせていただいた。

*7:半円型の天井を、柱から伸びたアーチ状の筋(これがリブ)で支え、上部空間をより高く見せる建築様式。

*8:中央に大ゲート(身廊)、左右に小ゲート(側廊)が設置され、それぞれを柱で区切った建築様式。