こんなトコもあるのにね(クメール遺跡@カンボジア)

カンボジアの遺跡と言うと『アンコール・ワット』がまず思い浮かぶと思う。
他にも仏顔の塔がある『アンコール・トム』、ちっと郊外に出て『ロリュオス遺跡群』、さらに離れたところでラピュタとか言われちゃっている『ベン・メリア』、もちっとムリして足を伸ばせば『プレア・ヴィヒア』などなど。
カンボジアシェムリアップ近郊には有名どころの遺跡が目白押しである。これらは世界遺産にも登録されている*1


オレも初回は、こうした有名遺跡を巡ったのであるが、やはり初めての場合は遺跡全体の雰囲気にばかり気を取られてしまう。このため細部は見落としがちで、帰国後に撮影内容を確かめた時、各遺跡のレリーフの精巧さを見て『失敗したぜ、もっとレリーフにも気を配って写真を撮ればよかった・・・』と、つくづく思ったものだ。
そこでリベンジとばかりに、二度目以降のカンボジアレリーフにも気をつけて見ることにした。すると、これが結構面白いのである。マクロではなくミクロの焦点と言うか、改めてクメール遺跡の良さを実感することができた。


有名どころの遺跡には、やはりそれなりのレリーフが残っているし、その量も膨大である。
しかしそれら以外にも、あまり知られていない遺跡がたくさんあることをご存じだろうか。規模が小さい、あるいは破壊が進んでいる(修復度が低い)、そして最大の要因は世界遺産ではない、と言った理由により、人が訪れることもほぼ無く、有名な遺跡のすぐそばにひっそり隠れるように存在してるものがある。


・・・なんだかもったいない気がする。



例えばこんなん。

プラサット・リーク・ニャン*2という遺跡、小さな単体の祠塔のみである。入り口から進むと、このように遺跡の裏側に着く。

正面はこんな感じ。遺跡自体、既に傾いている。
こんなボロボロで、しかも単体の塔しかないんじゃ見る価値ないと思うでしょ? だから誰も来ないのだが、これを見よ。

リンテル*3レリーフだけは、奇跡的に完全な形で残っているのだ。
これは見る価値十分だとオレは思う。

この遺跡は、大回りルートにあるプレ・ループ遺跡のすぐ隣にある。プレ・ループの売店兼駐車場から、歩いて5分もかからないとろで、ちょっくら見に行けるほどの場所である。地図はココ*4



同じくリンテルではこんなん。

こちらはプラサット・バッチュム*5
やはりかなり傷んでいる。支え棒や番線補強で何とか持ちこたえている感じだ。

裏側から見るとこうなる。祠塔は三基あるとは言え、ご近所のプラサット・クラヴァンとは比べようもない荒れぶりである。
これだけ見て帰る人が多いと思うのだが、ちょっと待った! 遺跡の左脇の方、少々目立たないのだがそこに要注目。

祠塔から取り外されたリンテルが、さりげなく置かれている。
中間部の剥離が残念だが、上部や下部の彫刻はきっちり残っている。しかも地面直置きなので、細かい点がよく観察できるのだ。

この遺跡、小回りルートのスラ・スランのすぐ南側、バンテアイ・クディやプラサット・クラヴァンからトゥクトゥク*6で5分ほどの至近距離、ちょっと足を伸ばす程度の場所となる。地図はココ


なお、この2ヶ所は立ち入り時のアンコールパス*7の提示は必要ない、ってか、そもそも管理官が駐在していないから^^;
でも遺跡エリア内にあるので、アンコールパスがないと見に行くのは不可能*8である。


次はアンコールエリアから外れたところにある遺跡。

バンテアイ・トム*9である。
入り口に参道があるので、本来はそれなりに大きなヒンドゥー寺院だ。しかし現在は崩れてしまい、かなり悲惨な状態になっている。

門の内側、崩れ方が厳しい。

中央に祠塔、しかし基壇すら見えないほどになっている。まさにボロ、ところが落ち着いて見回ると、

デヴァダー*10や、

レリーフが割合にシッカリと残っている。


まぁこの程度の残り具合であれば、わざわざ足を伸ばしてくるほどもないのだが、実は他ではあまり見たこともないものがココにはある。

内部参道にレリーフがあるのだ。見にくいのでちっと拡大。

アンコール遺跡では通常、レリーフは壁面に施されているが、底面というのはあまり見たことがない。しかもこれ、線刻のみで肉彫りの状態にまで仕上げられていないのである。
さらに不思議なのは、顔から上がないこと。制作途中で放棄したようにしか思えない点だ。一体何だろう?

アンコール遺跡はオレが見た限り、かなり精度が高く、どこでもきっちり仕上げられているのが普通である*11。この点、エジプト遺跡とは完成度が違うと思っている*12
なのでバンテアイ・トムに関しては、かなり謎。・・・単に壁が崩れた結果、参道の一部のように見えているだけかも知れないけれど^^;


ここはアンコール・トムの北側だが、大回りして行かなくてはならないので、シェムリアップ市内からは30分くらい掛かる。トゥクトゥクドライバーも場所を知らなかったので、道々地元の人に道を聞きながらで到着した。
地図はココ。ちなみにこの遺跡は、管理官が常駐しているのでアンコールパスが必須である。


最後はまたリンテル、しかしこのリンテルは大御所級である。

ワット・エンコーサイ*13というところ、シェムリアップ市内のヒンドゥー寺院に残されている遺跡である。
門と祠塔が二基のみ、その後ろの黄色い建物が現代のヒンドゥー寺院だ。

門から覗くと、中央祠塔が真正面になっているのがわかる。

近寄るとこんなん。元は三基の塔があったと思うが、左側の祠塔は無くなっている。その代わり、なぜか右側に小さなパゴダが造られている。
中央祠塔のリンテルに注目。

またリンテルかよ、と思われるかもだが、これは『乳海攪拌*14』のレリーフである。
実はなんと、リンテルでの乳海攪拌は殆ど例がなく*15、そのうちでもワット・エンコーサイはトップクラスの美しさと言われているのだ。
拡大してみるとこんなん。

確かに美しい、しかも保存状態もかなりいい・・・ところが誰も見に来ないのである。ナゼだ?


この遺跡は立地もよく、アンコール国立博物館やチケットオフィス*16からトゥクトゥクで5分前後、市内のホテルからであればアンコール・ワットに行く途中で、ちょっと立ち寄りが十分可能である。しかもアンコールチケット不要なので、気軽に見ることができるのだ・・・ところが誰も来ない。これこそもったいない、ってかみんな、レリーフにそこまで興味が無いのだろうか?
ちなみに地図はココである。



オマケ画像。

本文中のそこここに出てきたトゥクトゥクは、こんな感じである。客は屋根の下だが、ドライバーさんは炎天下なのだった^^;

(2017/12/28撮影)

*1:アンコール・ワット,アンコール・トム,ベン・メリア,ロリュオスが『アンコール遺跡群』、そして『プレア・ヴィヒア』は単独でそれぞれ登録。

*2:『Prasat Leak Neang』今のところ、日本語ネット検索ではヒットしない。

*3:出入り口を支える柱の上に水平に渡したブロック石のこと。まぐさ石とも言う。

*4:この遺跡は知名度がかなり低いと思う。遺跡観光専門のドライバーも知らない場所だったので、地図は必須。

*5:『Prasat Bat Chum』ネットではいくつかヒットするが、リンテル情報は皆無だと思う。

*6:バイクタクシーのこと。シェムリアップでは三輪バイクではなく、原チャリの後ろにボックスシートが付いているタイプ。小回りがきくし、なにより走っている間が涼しいので、オレは大好きである(^^)

*7:アンコール遺跡群見学用の入場チケットのこと。年々値上がりして、かなりイイ金額になっている。

*8:遺跡エリアの入り口でパスチェックが行われているのだ! そしてさらに各遺跡ごとにもパスチェックを実施と、かなり厳重なシステムとなっている。

*9:『Banteay Thom』ココはかなり検索ヒットする。でも現地では超マイナー。

*10:女神像のレリーフのこと。

*11:ほ〜んの少々例外もあるけど。割と有名だがアンコール・ワットに、肉彫りのなかに1ヶ所だけ線刻のみで終わっている部分がある。

*12:エジプト、細かそうに見えて実は手抜きが多いのだ。かなり笑えるレベルで中途半端になっているが、その話はいずれまた。

*13:『Wat En Kau Sei(Preah En Kau Seiとも)』カンボジア現地旅行会社の情報がヒットする。

*14:ヒンドゥー教での天地創造神話。アンコール・ワットの壁画が有名である。

*15:壁画では多いが、リンテルとしては8ヶ所ほど確認されているのみ。

*16:アンコールチケットの販売所。